
火定 - 澤田 瞳子
新型コロナウィルス騒ぎで、
ちまたではカミュの「ペスト」に人気が出ているが、
かつて天平時代に日本でおこったパンデミック天然痘を忘れてはいけない。
直木賞候補となった澤田瞳子の「火定」は天平の天然痘流行を描いた傑作。
天平の天然痘流行では日本の総人口の25〜35パーセントにあたる
100万〜150万人が感染で死亡したとされている。
この物語の登場人物は従来の政権中枢にいた藤原四兄弟などではない。
施薬院で働く医師や役人だ。
当時、痘瘡(もがさ)と呼ばれていた天然痘は高熱が出て、
いったん落ち着く。
しかしそれから全身に膿疱が出て、再び高熱を出し、
内臓にも広がり重篤な呼吸不全によって死に至る。
飛沫感染や接触感染により感染し、7 〜16日の潜伏期間があるというところ、
肺炎で亡くなるという点は新型コロナウィルスと類似点がある。
若き官人蜂田名代(なしろ)は施薬院の仕事に嫌気が差していた。
しかし痘瘡が発生し、
なんとか患者を救おうとする医師、綱手(つなで)や周囲の人々と接するなかで、変わっていく。
作者は名代にしろ、綱手にしろ完璧な人間として描かない。
けれど、身に降り掛かった出来事の中で懸命に生きていくうちに、
自らの弱さや欠点に気付き、その先を切り開いていく。
人はみな弱い。妬み、保身、差別、そんなものにとらわれる。
物語の最後に書かれた言葉が胸に染みる。
「医に携わる者は決して、心強き者である必要はない。
むしろ悩み多く、他を恨み、世を嫉む人間であればこそ、
彼らはこの苦しみ多き世を自らの医術で切り開かんとするのではないか」。
この本を読むことは令和のパンデミックに天平のパンデミックを振り返り、
人間という存在を考えるいい機会かもしれない。
今、医療の現場で奮闘している医療関係者に敬意を表したい。
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