
子どものころ西鉄電車に乗ると、田園の中にぽつんと白い看板があって
「苅萱の関跡」と書かれていた。
その看板が見えると「都府楼前」駅が近づいたくらいの意識しかなかった。
でも、そのイメージははっきりと頭に刻まれている。
その田園は今では様変わりして、国道3号線が貫き、住宅が立ち並んだ。
そして「苅萱の関跡」は場所を移された。
「苅萱の関跡」は言わずとしれた刈萱道心と石堂丸の物語の舞台の一つ。
苅萱の関守であったが出家した父を追って高野山に行った妻と息子、石堂丸。
でも一人、女の子はこの地に残された。その名は千代鶴姫。
母を旅先で亡くした石堂丸が戻ってくると、
千代鶴姫も死んでいた、という記述しか読んだことがなかったけれど、
この本には一人残された千代鶴姫が母と弟を追う場面が書かれていた。
「お母さん、お母さん」と泣き叫んで追った千代鶴姫は、道中は危険だからと、
母に言い聞かされ、聞き分ける。
「お母さん、石堂丸元気でね!」と何度も振り返って帰っていく千代鶴姫。。。
本には昔、見ていた田園の中にあった「苅萱の関跡」の看板が千代鶴姫の墓と書かれていた。
昔、その話を知っていたら、田んぼの中にこんもりと見えたお墓に、
そっと花を添えに行きたかったと思ったりした。。。
ああ、せつない。